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復興と震災の記憶

【宮古市田老地区】たろう観光ホテル

「たろう観光ホテル」東日本大震災津波の被害を後世に伝えるために保存されています

明治や昭和の三陸津波で、度重なる大きな被害を受けてきた宮古市田老地区。
「万里の長城」と称された巨大な防潮堤を整備し、津波防災のまちづくりを進めてきた田老地区においても、東日本大震災津波の被害を免れることはできず、新たな教訓を生みました。
3.11の体験を語り継ぐ宮古観光文化交流協会「学ぶ防災」の、元田久美子さんに現地をガイドしていただきました。

宮古市田老地区の津波の教訓「学ぶ防災」

 宮古観光文化交流協会が震災後から取り組んできた「学ぶ防災」ガイド。防災に関する視察や教育旅行だけでなく、近年は口コミ等によって個人での申し込みも目立ってきました。これまでに延べ16万4千人以上が利用している、宮古市田老地区の防災ガイドです。
 一般的なコースは、国道45号沿いの道の駅たろうに集合後、三陸鉄道リアス線田老駅から巨大防潮堤を巡り、「たろう観光ホテル」の内部を見学する1時間ほどのコースです。
 このほかに、申し込み時に希望があれば、田老を代表する景勝地「三王岩」や、昭和の津波の教訓を伝える「大海嘯記念碑」のガイド、特産品の真崎わかめの芯抜き体験なども行うことができます。

「学ぶ防災」ガイドの元田久美子さん。高さ10メートル、長さ1350メートル。
田老地区を一望する「万里の長城」第一防潮堤で防災のまちづくりを語ります

災害は忘れた頃にやってくるから「災害」になる

 道の駅たろうからスタートするガイド。向かいに建つ田老第一中学校での当日の緊迫した避難の様子を聞きながら、三陸鉄道リアス線田老駅へ向かいます。震災直後には道路も線路も被災したなか、三陸鉄道の線路づたいに徒歩で宮古市内へ向かう人が大勢いました。駅を過ぎて、新しく建てられた「キットサクラサク野球場」の海側から、階段で高さ10メートルの第一防潮堤に上がると、田老地区全てが見渡せるビューポイントです。
 「学ぶ防災」ガイドの元田さんのお話です。「東日本大震災の前から、田老地区ではこの防潮堤以外にも、避難しやすい道路整備などのまちづくりが、考えうる限り完璧に行われてきました。それでも181人の死者や行方不明者が出てしまいました。このガイドの取り組みに、語り部ではなくあえて『学ぶ防災』という名前を付けたのには理由があります。『天災は忘れた頃にやってくる』と言いますが、そうではなく『人が忘れることで災害になる』という考えがあるからです」。
 ただ逃げてくれたら助かったはずの命がある。その教訓と悔しさを伝え続けています。

一部が決壊した第一防潮堤。
田老地区には、新しく高さ14.7メートルの防潮堤が建設されています

ネスレ日本が支援した「キットサクラサク野球場」では、地元の中学生たちが野球の練習を行っていました

田老第一小学校の裏手にある「大海嘯記念碑」。昭和9年に建てられた、「大地震の後には津波が来る」など教訓を刻んだ石碑です

現地で見る衝撃、「たろう観光ホテル」記録映像

 平成23年3月11日、14時46分。15時からのチェックインを控えた「たろう観光ホテル」に宿泊客はいませんでした。かつてない揺れに見舞われ「津波が来る」と確信した従業員たちは、裏山の避難路から高台へと避難をします。たろう観光ホテルの松本社長は、ホテル6階の窓から見える田老湾に向けて、ビデオを構えていました。
 「ちょうどこの部屋の窓から撮影した映像を、ガイドの最後にご覧いただいています」と元田さん。大型テレビで松本社長が撮影した映像を流します。漁港の周りに民家や漁師小屋が立ち並ぶ、かつての田老の風景が映り、その後に津波の第二波と思われる高波が押し寄せる様子が見られます。そこからはあっという間に、町をまるごと飲み込む規模の津波がホテルにも直撃するまでの様子が収められています。わずか4分、ノーカットで収められた映像のリアルさに、まるで津波を追体験するような、息がつまる思いで食い入ります。映像は2本あり、もう1本は田老地区の他の場所からの津波映像が収められています。
 たろう観光ホテルからの津波映像は、「学ぶ防災」で現地を訪れた人にしか公開されていません。ホテル内への入場も「学ぶ防災」以外は制限されています。「建物を残し、その場所で当時の映像を見ていただくことが、貴重な防災体験になると考えています。津波の恐ろしさを間近に感じ、後世に伝えるとともに、日々の防災意識を高めてもらえたら良いですね」と、元田さんが語ってくれました。
 東日本大震災から8年以上が経過し、全国で未曾有の災害が頻発している昨今。災害に備える意識を新たにしてくれる「学ぶ防災」を体験するため、ぜひ宮古市田老地区を訪れてみてください。

建物のかつての2階部分までは壁が抜け、鉄骨だけがむき出しになっています。客室等はすべて流されており津波の威力を間近に感じます

6階部分の客室からは、田老漁港を望みます。窓の外の景色と、テレビに映される景色の比較を行いながら記録映像を鑑賞

たろう観光ホテル、「学ぶ防災」ガイドのお問い合わせ先 一般社団法人宮古市観光文化交流協会
電話:0193-77-3305

立ち寄ってみよう

道の駅たろう

 「学ぶ防災」の集合場所となる「潮里ステーション」をはじめ、産直施設や食堂、道路情報施設などが並ぶ国道45号の道の駅。潮里ステーション内には、立命館大学の学生がボランティアで訪れた際に作成した、東日本大震災前の風景を再現したジオラマが展示されています。
 敷地内の店舗は、震災前から田老地区で営業してきた地元の商店や食堂です。タコのかわりに特産品の真崎わかめが入った、たこ焼き風の新名物「真崎焼き」や、「どんこ唐揚げ丼」など、田老地区ならではの味覚がおすすめです。

道の駅たろう
再現ジオラマ

取材・編集

新里真美子(編集工房Kuva)