ここから本文です。

復興と震災の記憶

【陸前高田市】奇跡の一本松及びユースホステル・旧気仙中学校・道の駅高田松原・下宿定住促進住宅

陸前高田市観光物産協会の語り部ガイド、紺野文彰さん。右奥に旧気仙中学校が見える愛宕山の高台にて

東日本大震災の犠牲者数が、人口24,246人に対し1,757人(行方不明者含む、平成26年6月30日時点)に上ったとされる陸前高田市。広田湾に面した市の中心部は、津波によって壊滅的な被害を受けました。現在、新しい道の駅や、東日本大震災津波伝承館の建設が進む海沿いエリアの震災遺構について、陸前高田市観光物産協会の語り部ガイド、紺野文彰さんに伺いました。

「奇跡の一本松」と「旧陸前高田ユースホステル」

 陸前高田市のシンボルであった国の名勝「高田松原」の7万本の松。江戸時代から植林が進められ、陸中海岸国立公園(現・三陸復興国立公園)を代表する白砂青松の景勝地でありました。明治三陸津波やチリ地震津波を乗り越えてきた松原ですが、東日本大震災津波では「奇跡の一本松」のみを残し、一瞬で津波になぎ倒されました。
 語り部ガイドの紺野さんが、震災当時の浸水した一本松と陸前高田ユースホステル周辺の写真を見せながら丁寧に解説を進めます。「一本松は、枝の広がりが津波よりも高い位置にあったため水圧が抑えられたことや、周囲の建物、道路の位置や形状など様々な要因が重なって、奇跡的に倒れずに残った可能性があります」と教えてくれました。

奇跡の一本松(左)と旧陸前高田ユースホステル(右建物)。背後に広がるのは広田湾で、現在は高さ12.5メートルの堤防が整備されています

「旧気仙中学校」と希望のかけ橋の橋脚を一望

 語り部ガイドの紺野さんと共に訪れたのは、かさ上げが進む陸前高田市の中心部を一望する愛宕山の高台です。広田湾に注ぐ河口に架かる水門からすぐの場所には、旧気仙中学校の校舎を見ることができます。「震災当日、気仙中学校の全校生徒は迅速に避難を行い、全員が助かりました。2日前にも地震がありましたが、3月11日はあまりに大きな揺れでしたので、そのとき避難した小学校よりもさらに高い場所に避難を行ったものと思われます」と紺野さん。現地を目の当たりにしながら話を伺うと、海や河口のあまりの近さに一層の驚きを覚えます。
 旧気仙中学校よりも少し上流に、川を挟んで2本の橋脚が建っています。これは、愛宕山から土砂を運搬し、市街地のかさ上げや堤防の整備などに使うため、平成26年3月から約2年半のうちに事業が達成されたベルトコンベア「希望のかけ橋」の橋脚です。ダンプトラックだけでは9年かかると言われた、粉砕された石材や土砂の運搬をわずか2年以内に終えた復興事業の遺産として、今後も保存される見通しです。

旧気仙中学校の校舎。
写真手前側には体育館がありましたが、津波で流失しています

川を挟んで立つ2本の橋脚。
「希望のかけ橋」のベルトコンベアを支えた橋脚です

「道の駅高田松原」と「下宿定住促進住宅」

 前述の旧気仙中学校から、国道45号沿いの道の駅として賑わった「道の駅高田松原 タピック45」、「下宿定住促進住宅」周辺の海辺の一帯は、「高田松原津波復興祈念公園」として整備が進められています。現在、岩手県によって「東日本大震災津波伝承館」が建設されており、今年9月末の開館を目指しています。
 「岩手三陸の南端に位置する陸前高田は、三陸沿岸道路などが通る岩手県の玄関口です。整備中の伝承館からは、防潮堤の中央に設置される祈りの場に向けて造られるプロムナード(散策道)が設けられる予定です。海や浜、公園の緑地帯とが新しい景観美を生み出し、交流人口が増えて行ってほしいと願っています」と紺野さんが語ってくれました。

国道45号沿いに建つ「旧道の駅高田松原」

「下宿定住促進住宅」では、最上階の5階部分だけにベランダの覆いが残存。「14.5m TSUNAMI 2011.3.11」と書いた看板が貼られています

「自分自身の体験をもとに」語り部ガイドの思い

 語り部ガイドの紺野さんは、陸前高田市今泉地区に江戸時代から続く由緒ある旧家の子孫です。震災前、近所には老舗の醸造所「八木澤商店」がありました。地震の後、地区の裏にあった諏訪神社の高台で難を逃れた紺野さん。諏訪神社から撮影された津波襲来時の写真を見せながら、当時の様子を語ります。橋を一瞬で押し流す津波、八木澤商店の工場を飲み込む津波、神社の境内で身を寄せ合う人々。リアルな体験談に胸が詰まります。「ガイドをするときは、抽象的な話にならないよう、私個人の体験をもとにお話をしています」という紺野さん。後世まで語り継がれるべき津波の体験を、ぜひ現地で直接聞いて感じてください。

今泉地区の諏訪神社からの眺め。陸前高田市の市街地と氷上山を一望します

陸前高田市「語り部ガイド」のお問い合わせ先 陸前高田市観光物産協会
電話:0192-54-5011

立ち寄ってみよう

陸前高田市 市民の森(希望の灯り)

陸前高田市と広田湾を一望する箱根山には、展望台や遊具施設、宿泊施設などが集約された「市民の森」があります。気仙大工の伝統的な建築技法を今に伝える「気仙大工左官伝承館」や、四季折々の景観に包まれる散策道や展望台からの眺めを楽しめます。2011年12月には、伝承館そばの展望の良い場所に「希望の灯り」が建てられました。これは、阪神淡路大震災の「1.17希望の灯り」から分灯された絆のともしびです。

希望の灯り

取材・編集

新里真美子(編集工房Kuva)